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事故の話

1号艇 田中です。

 

私は昔、ミュージシャンであると誤解されて、ある小さな会場で演奏するはめになったことが有ります。

「本当にヘタクソなんです、本当です、」と 何度も言ったんですが、「何をおっしゃいますか、これはまたご謙遜を、」といった流れで結局はお客の前で演奏。

その後の会場から受けた冷たい視線は、思い出せば失神しそうになるほどです。

それはもう本当に死にたくなった経験で、「あの会場からの冷たい視線に比べたら海上のカヤックで巻き込まれた嵐などは怖くも何ともない!」って話でカヤック仲間と大笑い。

「あの会場のお客達に比べたら、迫り来る荒波はむしろオレに優しくしてくれたんだ!」そんな話で笑ったのです。

 

私はその仲間達と、その後、本当は事故の話をしたかった。

海上でのカヤック事故の話をです。

半場さんがその当事者だった、例の事故です。

我々ほどの者になれば、事故なんて言えば大抵何かしらヤラカシテいます。

笑いながら話す内容も、身の凍る内容だったりするもんです。

でも私は本気でこう思っています。

大勢の人達から一斉に向けられる冷たい視線なんかと比べれば、海上での身の凍る失敗体験は、どこか暖かい。

 

仲間の事故は、それは怖いけれど、嫌な感じの話題ではないのです。

当事者は笑えないでしょうけども、仲間とは笑って話したいなあと、いつもそう思ってます。