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シェイク・ダウン

1号艇  の 田中です。

 

横山 晃  設計士をご存知でしょうか。

故人です。今 望んでも 誰ももう 会えません。

 

昔、マリン雑誌の 「舵」誌にページを持って居たかと記憶しています。

私が読んだのは 「海で生き残る条件」「新ヨット工作法」「ヨットの設計」です。

ここに書かれている文章内で使われる、「サバニ船型」「野生」「粘り腰の2次安定性」「長時間帆走」「シーマン」「名人」「センス」他の単語の意味は重く、真面目に読んだら 明日の天気予測すら  「出来ますよ」とは発言出来なくなりますよ。

 

横山設計事務所には、2号艇の半場さんが入り浸っていたと聞いています。

横山 教の信者である私にとっては  とても驚きなのですが、意外にも横山先生は 半場さんの話をよく聞いたそうです。

横山設計 サバニ船型 の傑作、セーリング・カナディアン  の誕生には、半場さんの協力は大きな力となったのは  私の確信するところです。

 

スムーズなカーブを持たせたハルで水の抵抗を減らし、水線長速度を上げつつ、横幅で1次安定性を確保するという、普通の設計で作られたノーマルタイプのカナディアンカヌーでは  荒れた海面では 舟は波の坂を登ったり、坂を下ったり、波の谷間にバウが刺さったり、ピッチングやローリング、ブローチングを起こすでしょう。

荒れた海に飛び込んで行く舟の選択肢には 入りませんね。

 

横山サバニ船型の セーリング・カナディアン は、波浪に突入すると  バウを浮かせたり、小さな波は貫かせたり、スターンを沈めたり、やや浮かせたり、ハルのカーブに沿って流れる水流の加減で、負圧を発生させて ハルを波の斜面に吸い寄せたり、正圧を発生させて水流を弾いたり、それらを複合的に行って、波浪間を通過する際に船体を水平な姿勢に保とうという動きをします。

 

半場さんは、この横山セーリング・カナディアンを荒海で  とことん使い込んでは、設計事務所に入り浸り、さんざん海の話をして、横山先生もその話を喜んで聞いたそうですね。

 

横山設計士が お亡くなりになる前に、半場さんはある数値と、遺言の様なものを受け取ったと聞いています。

それが何なのかは、学の無い半場さんには解らなかったのですが  少しだけ学の有る私がそれを図面に起こして制作したのが YT17-mark1です。

 

当時まだ  若かった私は、横山先生と ついに 一言の会話も有りませんでしたが、強い感謝や尊敬や畏れの気持ちを持っています。それは 半場さんに対してもです。つまりは信者です!

 

そんな私にとっても、YT17-1号艇がシーカヤックとして使えるのかはギャンブルでした。

横山先生は かつてシーカヤックの設計に失敗していると聞いています。半場さん曰く、あれは「駄舟だ」ったと。

半場さんの受け取った数値や遺言は、別にシーカヤックの設計図では無く、海や船の話から出た雑談の一部であり、我々にとってはそれがセーリング・シーカヤックのYT17だったと言うだけです。

ですので これが  はたして シーカヤックとしてイケルのかは、甚だ疑問。

横山 教の信者である私は正当な評価を出来るのかも、かなり疑問。

 

という訳で、1号艇のシェイクダウンには荒天の夜の出艇を選びました。

平水で無風の湖で漕いで見て、思い入れの強いカヤックの評価を、私が正確に出来る訳が無い。

 

荒天の闇の中で、YT17のポテンシャルは直ぐに感じましたよ。

装備は 田中式の バウ・ライン のみ。セイルやセンターボード、スケグなどは無しで、着座位置も前後バランスも適当でした。

 

YT17の  Y  はYokoyamaの Y で、17は17フィートの水線長の意味。

T は Tanaka の T のつもりだったのですが、「それは トリビュート の T 」でしょうと、半場さんの奥さんが付けてくれた T です。